この記事では、日本のお正月の風物詩として知られる風習をいくつかご紹介していきたいと思います。どれもなかなかに日本人らしい風習だったりしますので、お楽しみ頂ければ何よりです。
初詣(はつもうで)
旧年の平安や豊穣への感謝と共に、新年も変わらない平穏無事を祈願するために神社や寺院等に参拝する行事です。特徴的なのは、基本的に無宗教である日本人の多くにも定着している風習である点でしょうか。何らかの他の宗教や信仰を持つ日本人にもよく受け入れられていると言うのも興味深いところかもしれません。元々は、大晦日の夜から元日の朝にかけて、居住している地域の土地神(氏神)が祀られている神社に各戸の家長が籠って祈念する行事だったようです。それがやがて、元日に神社を詣でる形へと変わっていったとか。江戸時代の終わり頃くらいまでは、武家や公家と言った階級の人々や大きな商家の間で行われていたようですが、明治以降は世間一般の人々にも定着していきました。この頃から、この時期の娯楽行事の一つとして、各々の土地神が祀られているお社に限らず有名な寺社等に参拝することも行われるようになったみたいですね。現在でもその性質はすっかり定着しており、居住地域とは全く別の寺社への「初詣」は一般化していたりします。各寺社には前述の祈念のための様々なグッズ(御守り、破魔矢、絵馬、熊手など)が販売されており、それらを購入するのも「初詣」の醍醐味の一部になってます。日本全国の神社や寺院が最も活気づく行事と言ってもいいかもしれません。
賀詞(がし)
日本では、お正月時期には街中のいたる所に新年を祝う特別な文言が溢れ返ります。それらの多くは、元々は新年を祝う場合に限って用いられる文言ではなかったのですが、現在ではもっぱらお正月を祝う文言として用いられるようになりました。そんな文言を「賀詞」って呼びます。「賀詞」って言うのは、祝意を表す言葉や文字群のことですね。この新年を祝う「賀詞」は、まぁ、結構種類がありまして。一文字のものですと、”寿”、”福”、”賀”等・・ 二文字のものですと、”賀正”、”迎春”、”新春”とか・・ 四文字のものになると、”謹賀新年”、”恭賀新年”、”慶賀新年”・・辺りがよく見られるでしょうかね。お正月時期の商業施設の広告やのぼり、年賀状なんかに用いられる文言としてはお馴染みです。基本的な意味としてはいずれも、英語圏で用いられる”Happy New Year”なんですが、実は微妙に込められるニュアンスがそれぞれ違うんです。ですから、商業施設の広告やのぼり、年賀状なんかに表記する場合にはきちんと使い分けされているんです。新年を祝う「賀詞」とは言え、目下の人が目上の人に対して用いるのは敬意や配慮が足りないことになってしまったりってことになるわけでして。まぁ、ちょっと簡単にご説明するならば・・ 例えば一文字、二文字のものは、目下の人から目上の人に対して用いるのは基本的に不適切とされているので、四文字のものを用いることが多いでしょうか。或いは、目上の人に対しては、ある程度定型化されている文章型の「賀詞」を用いた方が誤解がないとか。「賀詞」は、上述させて頂いた文字群の他にもまだまだあります。目にされる機会がございましたら、その意味合いを調べて頂くと面白いでしょう。
お節(おせち)料理
お正月に食される伝統的な日本料理です。詳細につきましては、当サイトの記事”お節(おせち)料理(O-Sechi Cuisine)”にてご紹介しておりますので、是非ご覧ください。日本は非常に豊かで幅広い飲食文化を有すると言われています。海外の食文化を取り入れることに関して、昔からとても寛容だったお陰でしょう。今日の”おせち料理”にもそれらはよく表れておりまして。伝統的な日本料理と現代風の創作料理なんかがまとめられたものになっていることが多くなりました。おそらく海外からの皆さまの多くが楽しんで頂けるんじゃないかと思いますね。あ、やはり初めは日本特有の伝統的な”おせち料理”をお試し頂きたいのは勿論のこと。今後もどんどん変化していくであろう日本の”おせち料理”にご注目頂ければです。
お年玉
日本のお正月の代表的な風習の一つとして、「お年玉」と言うものがあります。新年を迎えたことを祝って、目上の者が目下の者に金銭を与える習慣、或いはその金銭そのもののことを意味します。この場合の目上/目下の定義は年齢上だったり、仕事上の序列だったり様々です。ちなみに、一般的に目下の者が目上の者に金銭や贈答品等を贈る場合は「お年賀」と言います。同じような風習はアジアの各国でも見られたりします。中国なんかでは御守りの一種として子供にお金を持たせる習慣が近代以前からあったようですし、目上/目下の違い等に関係なくお金を贈り合う風習もあるそうですね?日本における「お年玉」に当たる習慣は、中世の頃にはあったみたいです。お正月に、歳神をお迎えしてその年の豊穣をお願いする、つまり神様の力を分け頂くことになぞらえたんだとか。ただし当時贈っていたのは金銭ではなかったそうで、身分によって贈る物の違いがありました。武家では太刀。町人や商人は扇って具合だったんだとか。金銭そのものを渡すようになったのは、実は近代以降(第二次世界大戦後)なんです。銃後の経済復興やベビーブームの勢いとも相まって、「お年玉」の習慣は一般庶民にも急速に広まっていきました。まぁ、この「お年玉」と言う風習もそもそもは子供の健康を願って~とか、人と人との縁や付き合いに感謝して~と言った意味合いを込めたものだったんでしょうが。また、お互いに遠方に住んでいる親族や知り合い等、普段はあまり接する機会のない人とのコミュニケーションの一つだったりもしたわけです。しかしながら・・ 現代の日本では、何歳くらいの相手(主に子供)にはいくらくらい渡すのが適切か?ってことの方が重要になってしまっている風潮があったりします・・「( ̄▽ ̄;) また、近年は現金の代わりに電子マネーや何らかのサービスポイントなんかで贈ることができるようになったりと、「繋がりの形」と言ったものが随分と変質しているようです。今後も、その様子がどんどん変化していくかもしれないと言う意味では、とても興味深い風習と言えるかもしれませんね。
年賀状
日本には、新年を祝うと共に旧年中の厚誼への謝意を知り合いや仕事上の相手に伝える意味合いで「年賀状」と呼ばれる挨拶状を贈る風習があります。西欧の文化圏で言えば、クリスマスカードやグリーティングカードなんかが似たものにあたるでしょうか。中国や韓国等、東アジアの国々や地域でも同じような風習があるようですね。元々は、奈良/平安時代頃に貴族や公家等の上流階級の間で行われていた「年始回り」と言う、新年の挨拶回りの風習から始まったものと考えられています。これらは直接相手方の自宅に訪問して新年の挨拶を行っていたわけですが、それらがやがて書状や贈答品を届けることで挨拶の代わりにするようになっていったようです。以降、武家社会へと移行した後、町人文化が花開いた江戸時代を通じて一般にも広がりました。現在の日本の郵便制度が始まったのは明治維新後のこと。1873年に郵便葉書が発行されるようになったことで、それまでは書状で贈り合われていた「年賀状」を郵便葉書で贈るのが急速に一般化していきました。年末年始の恒例行事の一つとして「年賀状」と言う風習がこの国に定着したのは大体この頃のようですね。高度経済成長期を経て、時代の風潮や印刷技術等の高度化、多様化も相まって「年賀状」の風習は2000年代始めくらいまでは非常に盛り上がりを見せていました。しかしながら・・インターネット技術の一般化や携帯電話の普及が進むにつれて、その需要はどんどん減少していきました。近年のスマートフォンやSNSの爆発的な普及は、それに追い打ちをかけたと言えるでしょう。「お年玉」と同様、こちらもその意味合いや手段が今後もどんどん変化していくと思われる風習ですね。
福袋
デパートや百貨店、スーパーマーケットや飲食店等を含む様々な商業施設で行われる新年の初売りにおいて、色んな商品を詰め込んで封をして販売される袋商品のことです。或いは、その商形態のことも「福袋」って言います。「お年玉袋」って呼び名もあったりするんですが、ここでは特に「福袋」と言う呼び名が付けられた経緯や意味合いに注目して頂きたいと思います。ちなみに「袋」と言う名前を冠していますが、その外装は袋状のものに限られておらず、箱だったり他の容れ物だったり。詰め込まれる商品として扱われるのも物理的にまとめられるモノだけで無く、大型のモノや無形の商品やサービス等を概念的にパッケージングしたモノなんかも含まれます。ほとんどの場合、これらの「福袋」はその袋の中に詰められた商品を伏せられて、お得な価格(袋の中身の総合計価格以下)で販売されるんですね。そうすることで、購入者は幸福、幸運を引き当てる楽しみが得られると言うわけです。所謂、クジ引きみたいなものです。「福袋」のような性質を有した商品や商形態がいつ頃から始まったのかは諸説あったりするんですが、現在の「福袋」の正に原型と呼べるようなもので有名なものは、江戸時代に登場しました。当時著名な呉服屋の一つとして知られていた日本橋の越後屋さん(現在の三越さん)で販売された「えびす袋」ってものがそれでした。年終わりの時期に、1年の裁ち余りの生地を袋に入れて安価で販売したのが非常に評判を呼んだんだとか。で、それにならって全国の呉服屋さんが同様のことを行って、それが恒例化していったと言われています。その後、他の商品を取り扱うお店なんかでも行われるようになっていったと・・ 購入する楽しみに一工夫して、それを膨らませるって言うアイデアはやはりスゴいですよね? 当然、中身が伏せられているわけですから、価格的にはお得であっても所望する商品が必ず入手できるわけではありません。その辺りは皆さんもご想像の通り、販売する店舗側にとっては集客のための有効な手段であると共に、在庫処分的な意味合いも持ち合わせているんです。ですから、売れ残り商品や不人気商品がどっちゃり・・なんてこともしばしば。逆に本当に超お得な当たり商品入りだったり、思わぬ良品とのめぐり逢うきっかけになることも。まぁ、そう言ったことを全て含めて楽しむのが「福袋」の醍醐味ってものなんでしょう。機会がございましたら、皆さんも運試しにいかがでしょうか?
※恵比寿(えびす):七福神の一柱として知られる神様です。一般的に狩衣を着て右手に釣り竿、左脇に鯛を抱えている姿で描かれます。商売の繁盛に関わる客神や門客神とされています。
こうしてご紹介してみると、時代を経るにつれて風習と言うものはどんどん変化していくものなのだ、と言うことを改めて感じます。その手段や用いられるものの形や意味合いなんかも様々に・・ 廃れていったり、無くなっていったりするものの方にどうしても目が行きがちですが、きっと本質にあたるものは意外と変わらずに残っていくのかもしれません。うーん・・ そう願いたいものですね。