世界各国/各地には、それぞれ暦に基づいた年中行事ってありますよね? 日本にも当然、そういったものは多くありまして、その行事が執り行われる日の多くは祝/祭日とされてます。19世紀末以降、日本ではグレゴリオ暦が用いられています。尚、それ以前は旧暦と呼ばれる古代の中国における陰陽五行説に基づいた暦を用いていたんですが。

さて、季節の節目にあたる日に執り行われる年中行事を日本では「節句(せっく)」って呼びます。で、その「節句」の日には、それぞれに因んだ食べ物/飲み物がありまして、それらは全て「お節(おせち)料理」と呼ばれていました。それらの「節句」の中でも代表的なものが「お正月」です。年の初めと言うことで、その年の無病息災や平穏無事、商売繁盛、開運招福、豊作豊漁なんかを祈願したりするわけで、非常に重要視されたんですね? その結果、特にお正月料理を指して「お節料理」と呼ぶようになったんです。そんな、この「お節料理」ですが・・ 「和食」における調理方法の中でも、”保存”と”味付け”の両立ということに特化した調理技術がいかんなく発揮されている料理です。「お正月」は日本では冬の時期にあたります。その時期に入手できる食材は非常に限られるわけですので、季節外のものを用いる場合はそれ相応の”保存”技術が必要なわけです。また、”保存”された食材はその保存方法ゆえに、往々にして味が極端(超しょっぱいor甘いor水分ゼロで味なし~みたいな)だったりするために、”味付け”が難しい。更には「お正月」を祝う料理ですから、やはり目出度いものじゃなくてはっ!”験”を担いだものにしなきゃっ!って考えも多分にあったようでして。そう言った色んな要望がぎっしりと詰め込まれた、なかなかすごい伝統料理なんです。

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そんな具合に季節ものの食材を用いると共に、節句を祝うための料理ってことから、当然地域によってそれぞれ異なった部分がたくさんあったりするんですね? それら全てをご紹介するのはなかなか大変ですので、今回はあくまで「お節料理」の基本構成を知って頂きたいと思います。各料理にちゃんとそれぞれ意味があるって言うのが、とっても面白いところなんですよ~。

「お節料理」は基本的に次の四つの料理で構成されます。

祝い肴(さかな)三種

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「三つ肴(or口取り)」と呼ばれます。いくつか種類がありますが、その内の少なくとも三種は準備するって感じですね。勿論、三種以上でも可です。目出度いものが多い分には問題ないんです、きっと。

・黒豆
黒豆の甘煮。黒色は道教において邪気除けの色とされていることから。「無病息災」の意味。

・お多福豆
ソラマメの甘煮。「多福/招福」の意味。

・栗金団
芋餡と煮栗の和え物。「搗(か)ち栗」とも呼ばれる。”搗ち=勝ち”の意味。またその色が金色であることから、金運を願う意味も有り。

・数の子
ニシンの卵巣の煮物。その卵の数の多さから「五穀豊穣」「子孫繁栄」の意味。

・田作り
乾燥カタクチイワシを乾煎りして、甘辛く煮詰めたもの。 「五万米(ごまめ)」とも呼ばれる。「五穀豊穣」の意味。

・伊達巻
魚介類のすり身と溶き卵で作る出汁巻き卵焼き(調理方法は多種類有り)。華やかさや派手さの意味をもつ「伊達」に由来する。”巻物”の形状から「学業成就」等を願う意味で。

・紅白かまぼこ
“紅白”の色から縁起物とされる。

煮しめ

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煮物のことです。特に煮汁が残らないように調理したものを”煮しめ”と言います。

・ねじりこんにゃく(手綱こんにゃく)
こんにゃくの煮物。綱に似た形状から、その結び目にあやかって良縁と結ばれるように、という意味。

・昆布巻き
ニシン等を昆布で巻いた煮物。”喜ぶ→よろ「こんぶ」”の語呂合わせによる験かつぎの意味。また”巻物”の形状から「学業成就」の意味も。

・たけのこ煮
成長の早い竹に因んで、「立身出世」や「家業繁栄」等を願って。

・八ツ頭
里芋の煮物。親イモに子イモがたくさんくっつく形状から子宝に恵まれることを願う意味で。

・金柑煮
その色や「金冠(きんかん)」に準えて、金運を願う意味がある。

・陣笠椎茸
椎茸の煮物。椎茸の傘の形状を陣笠に見立てて、武家としての繁栄を願って。

・くわい
芽が出たくわいの煮つけ。大きな芽が突出る様から「めでたい」の語呂合わせによる験かつぎの意味から。「立身出世」等の意味も。

酢の物

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酢で〆る調理を用いたもの。

・紅白なます
大根と人参のなます(酢の物)。日本では”紅白”は平安/平和の意味があるお目出度い配色とされている。

・蓮
蓮根の酢の物。蓮根は仏教における仏のいる極楽の池に咲く花ということから穢れ払いの意味がある。また、その形状から”将来の見通しが良い”という意味も。

焼き物

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主に魚介類(肉類も有り)を焼きしめたもの。燻製なんかも含まれる。

・鯛(たい)
「めでたい」の語呂合わせによる験担ぎの意味から。見た目の華やかさから、祝い事に用いられることが多い魚。

・鰤(ぶり)
出世魚であることにあやかって「立身出世」等の意味で。
※”出世魚”とは、成長にしたがって呼び名が変わる魚のこと。鰤の場合は、モジャコ→イナダ→ワラサ→ハマチ→ブリ(地域によって異なる)。鱸(すずき)やボラ等も出世魚として知られる。

・海老(えび)
イセエビやタイショウエビ、クルマエビ等の焼き物。長いヒゲ、曲がった腰の形状から長寿を願う縁起物とされる。脱皮を重ねて成長するさまから「立身出世」等の意味も。

近年では、各家でこれらの料理全てを準備するのはとても大変なんです。そんなわけで、年末が近くなると、これらの「お節料理」が収められた組重(”重箱”を重ねたもの)の予約販売の宣伝を目にすることが多くなります。大晦日に届けてくれるんですね。バリエーションも様々。かなり洋食寄りの素材を使ったり、創作料理っぽい中身になっていたりとかなり現代っぽいメニューになっていることも。スーパーやコンビニエンスストアなんかでは一品ずつから購入できたりもします。年末年始のホテル等では、特別メニューとして提供しているところも多くあったりしますね。見た目、とっても華やかですので日本の「お正月」気分を味わうには持って来いかもしれませんよ?