近年では、もっぱら木材パルプを原料とした洋紙が一般的に流通するようになり、日本の伝統的な製法や原材料を用いた所謂”和紙”は用途がかなり限られるようになりました。まぁ、その製法が極めて細やかで時間を要しますし、原材料も高価であるため、大量生産/消費される現代では致し方ないんでしょう。とは言え、工芸品や日用品、家具等の部材としての利用や美術画用紙、最もよく知られているところでは”紙幣”の素材と言った具合に、少し特殊/特別な分野での利用が主になっています。実は、世界中の文化財の修繕や補修なんかにも用いられてたりするんです。”和紙”の特徴としては、材料に用いる繊維が洋紙と比較すると長いことから、薄くても非常に丈夫で経年劣化が少ないのだそうです。それでいて熱や水に強く、また柔らかい特性を持つことから、極めて優れた特質を様々に有する紙なんだとか。

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紙の製法は、元々大陸から伝来したものです。頃合い的には、大体6世紀半ばくらいのこと。この時期は、日本に仏教がもたらされた頃でして。つまり、書物類なんかが国内にたくさん持ち込まれた時期だったわけです。同時に他分野の様々な文化や技術なんかも伝来してきました。きっと、文字が書きつけられた”紙”を目にして、”何だコレ? 便利じゃね、コレ? どうやって作るの、コレ?”ってなって、製紙技術を教えてもらったんでしょう。で、本格的に国内で紙が生産されるようになったのは、8世紀はじめ辺りのこと。当然のことながら、当初はあくまでも知識階級(or当時の支配階級である貴族)でのみ利用されるものでした。しかしやがて、武家社会への変遷を経て・・ 江戸時代になった頃には、町民を中心とする一般世間にも広く流通するようになったわけですね。国内で製造される紙の原材料となったのは、主に大麻(おおあさ)や苧(カラムシ)、楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)といった植物で、いずれも日本に自生していた植物でした。まぁ、どの植物の繊維が紙の製造に適しているか?っていう試行錯誤は案の定い~っぱいあったわけですが・・ 現在でも”和紙”の原材料としてはこれらが主に用いられています。さて、日本で盛んに行われた紙の製法は、”流し漉き”でした。紙料(紙繊維が含まれた水)を簀(”す”or”すのこ”)や網で濾して、均一になるように揺らながら、紙料を簀に追加したり捨て戻したりすることを繰り返すことによって、簀や網の上に紙層を作る漉く方法です。中国を中心として東アジア地域などでも同様の方法が用いられていたそうです。紙料の原料等の違いなんかもありましたから、日本独自の”流し漉き”技術が発展していき、その結果非常に高品質で多種多様な”和紙”が製造されるようになりました。文字を記録する用途の他、家具や家屋等といった日常的に用いられるものの多くが木材や紙材だったことも日本の製紙技術向上の重要な要素だったんですね? しかし近代に入って、紙の需要は大幅に拡大していきました。”和紙”にとって代わって、原材料の価格や生産費用が安価で済む洋紙の需要が一気に増大したわけですね。

そんな歴史を経て、今や非常に高価なものになってしまった”和紙”製品ですが。やはりその魅力は、その耐久性と独特の”風合い”でしょう。”風合い”と言うと、非常に適した訳語が難しかったりしますが・・ 最も分かりやすいもので言えば、”手触り”でしょうかねぇ。この”手触り”は、他のどの国の紙にもないものだったりします。”和紙”を使った何かしらの製品も当然魅力的ではあります。しかしながら、”和紙”そのものを入手して頂いてその用途を皆さんそれぞれが工夫して頂くのもいいかもしれません。きっとその質の高さに感心して頂けるでしょう。

懐紙(かいし/ふところがみ)

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日本の文化において、”紙”はその用途が非常に多岐にわたるものでした。様々な出来事や思想、文学等を記録/保管するための用途としては勿論のこと。工芸品の材料としての利用も非常に多いんですね。日本の文化に関わるモノを少し想像して頂くだけでも、紙が用いられたモノがとても多いことがお分かり頂けると思います。日本の建築文化においても、なくてはならない材料ですし。それだけに、海外から紙の製法が齎されて以来、その技術は日本全国隅々にまで広がって行ったんです。そして、各地域毎にその用途毎に適した高品質な製品を生み出す研究がさかんに行われました。近代以降、一般に流通するようになった”洋紙”と区別して、”和紙”なんて単語が用いられるくらいに、日本においてこの”紙”文化と言うものは非常に重要だったわけです。

さて、そんな日本における”紙”文化の中でも、世界的に見てもちょっと珍しい利用方法?をご紹介したいと思います。”懐紙(かいし/ふところがみ)”ってものです。簡単に説明いたしますと・・ 懐に常に忍ばせておく紙束で、基本的に何にでも使える”紙”です。何かを包んだり、何かを拭ったり、何かを上に置いたり・・ 勿論、文字や絵を書きつけたりなんかも。そう言った、日常生活の中で行い得るほとんどのことをこの”紙”を工夫して用いて済ませていたんです。江戸時代の頃には、まぁ、その”紙”の質はともかくとして、身分を問わずみんながこの”懐紙”を携帯していました。万能便利グッズとして携帯されていたんですね? ただし、決して無駄使いしていたわけではなくって、使えるものはできるかぎり多用途で活用するための工夫だったんです。当時、海外の人達は、日本人の”紙”利用の頻度と用途範囲にかなり驚いたんだとか。海外では、基本的に文字や絵を記録するためのものって利用がほとんどで、日常生活での頻繁な活用なんて文化はなかったそうですから。一般庶民に至るまで、そんな感じだった日本の”紙”文化はとても特殊に見えたのかもしれません。まさに、日本ならではの光景だったんでしょうね。

まぁ、時代の流れもあって、この”懐紙”文化もなかなか衰退気味だったりします・・ 現在では、”茶道”なんかにおける”会食”や”茶会”等でくらいしか目にすることがなくなってしまいました。他には冠婚葬祭等の催事なんかにおいて見られるくらいでしょうかね。実のところ、日本人でも知らない人の方が多いかもしれません。環境への配慮等々、色々ありますから仕方がないんでしょう。しかしながら、現代においても結構実用的な面が多いんですよ? ホントに。やり様によっては、実はとても環境にやさしいはずなんですがねぇ・・