禅宗の僧侶が修行の一つとして行った”精進料理”の研究は、その後の和食文化における料理技術を非常に多様化させました。今回ご紹介する”麩(ふ)”も、この精進料理の研究から生み出された食材の一つです。大元になる製法自体はやはり大陸からもたらされたもののようです。原材料は、小麦粉と塩と水。まずは、これらを混ぜて練って生地を作ります。で、それを布地で包んで水中で揉みます。そうすることで、デンプン質を溶かし出して、グルテン成分を抽出するってわけですね? “麩(ふ)”は、このグルテンを各種加工処理したものです。”麩(ふ)”は以下のものに大きく分けられます。
生麩(なまふ)
“生”って言ってますが、実際には”生”ではありません。その食感が”生っぽい”んです。コチラ、抽出したグルテンを蒸したものでして、餅に似たプルふにゃ食感が特徴です。麩まんじゅう等の和菓子に用いられる他、田楽(でんがく)の具材としても人気。
揚げ麩(あげふ)
生麩を油で揚げたもの。汁物料理の具材としてよく用いられます。
焼き麩(やきふ)
抽出したグルテンに他の穀物類の粉(米粉、小麦粉etc)を加えて、焼きを入れたものです。一般的なスーパー等の食料品店で目にするものは大体がこの”焼き麩(やきふ)”でしょう。汁物や炒め物等、各種料理に用いられます。駄菓子としてよく知られる”麩菓子”も”焼き麩(やきふ)”を用いたものです。
正麩(しょうふ)
グルテンを抽出する際に水に溶かし出したデンプン質を乾燥させたもの。葛餅等の和菓子の材料として用いられます。
小麦粉と塩と水と言う、同じ原材料を用いているにもかかわらず、加工方法の違いによってそれぞれ全く異なった食感の食材を作り出しているのがスゴいところです。その後、それぞれの食感を生かした料理が考案されていきました。歴史の長い食材ですので、郷土料理の具材として使われていることも結構多いですね。動物や魚介類を食することが禁じられている禅僧の食事において、タンパク質をどうやって摂取するかってことは非常に大切でした。大豆を原料にした”豆腐”と並んで、この”麩(ふ)”は、タンパク質の摂取にはもってこいだったんですね? 勿論、その当時は現在のような栄養学の知識はなかったわけです。にもかかわらず、”精進料理”の研究のために行われていた工夫が、栄養をバランス良く摂る方法に通じていたと言うのは実に驚くべきことでしょう。”精進料理”が非常に優れた料理方法の宝庫と言われる理由の一つです。
いかがでしょうか? きっとご興味が湧いたんじゃないでしょうか? 文化圏毎に面白い食材って色々あったりしますが、この”麩(ふ)”は、いかにも日本の食文化らしいこだわりが感じられるものです。あの言葉で表現するのがなかなか難しい独特の食感を皆さんも体験してみて下さい。是非ともご感想を聞かせて頂きたいものです。