調理済みの食糧を携帯すると言うことは、古来から世界中で行われてきました。その際に当然必要となるのは、その保存性と運搬or携帯に適していることでした。先人達は、そんな携帯用食料のために様々にその調理方法(加工方法も含む)を生み出してきたわけですが・・ 日本でも、色んな携帯用食料が考え出されました。基本的には、保存可能な食糧を携帯していって、その場でそれらを調理するって方法が多かったようですが。まぁ、近場に食糧を持って行くならば、調理済みのものの方が手間が少なくってイイわけで、おかずをご飯に詰めて丸めた”おにぎり”なんかが考え出されました。で、時を経て・・ 現在の”弁当”と言うものが生み出されました。簡単に説明するならば、主食とおかず類を同じ容器にぎゅぎゅっと一まとめにしたものですね。この”弁当”と言う食事提供の方式って世界的に見ると珍しいようですね? 一つのお皿に主食もおかず類も盛り付けて供する方式自体は、海外の他の国/地域でも割とよく見られるものですが、それらをコンパクトに一まとめにして携帯可能な形にまでしているのはあまりないんだとか。特に現代の日本人にとっては、この”弁当”という文化はとても日常的なもので、馴染み深いんです。日頃から、職場や就学先等に持って行くものでしたから、各一般家庭においても日常的に作っていたものなんです。各一般家庭毎に定番のおかずだったり、その組み合わせパターンなんかが出来上がっていることも普通だったりしました。スーパーやコンビニエンスストア等でも、専用のコーナーが設けられてますね。”弁当”の専門店や大手チェーンなんかもありますし、オフィス街等では周辺の飲食店が店内飲食用のメニューとは別に弁当メニューを用意していることも珍しくありません。それくらいに、この”弁当”という文化は、現在の日本ではお馴染みのものなわけですが。ただ運搬や携帯が容易で、空腹を満たすことができるってだけでは、おそらくこんなに定着はしなかったんでしょう。やはり、十分なカロリーや栄養素がバランスよく取れて、かつ見た目も味も満足できるものにするために、本当に様々な工夫がなされているものだからこそなんです。では、日本の”弁当”にはどんな工夫がされているのかってことで・・

o-bento_002
和食の基本構成としてよく知られているものに”一汁三菜”と言うものがあります。”一汁”とは汁物料理のことですね。それに”三菜”、つまり三種類のおかずを添えて、更に日本の主食である”ご飯(お米)”を加えた五種によって構成される献立形式が良いとされる考え方です。そうすることで十分なカロリーや栄養素がバランス良く摂取できますよ~って考え方です。まぁ、あくまでこれは基本構成の”例”です。この”例”を基にして、”いい感じ”に工夫してみて下さいね~ってわけです。一日のカロリーや栄養素の摂取量としての推奨値なんかも、時を経るに従って色々変わってきています。近年は、特に色んな説や意見が出されたりしていますよね? 関連書籍なんかも非常にたくさん出版されてたり。ですから、前述の”一汁三菜”+”ご飯”って構成に関しても、「いや。”一汁二菜”の方がイイ」とか「塩分の過剰摂取になるから”一汁”はない方がイイ」等々、実に様々な説や意見が出されてたりします。それらの内のどれが正しいとか、どれが優れているってことは、今回は置いておいて・・ 取り敢えず、和食の献立の考え方にはこう言った基本概念のようなものがあるってことを踏まえておいて頂いた上でですね? 和食には、更に”五味・五色・五法”って言う基本概念があるんです。和食の献立を考える際に、これらの条件を満たすようにすると、健康的で美味しい、見た目も美しい”いい感じ”の構成になるんだとか。まず、”五味”は五種類の味。「甘い」「塩(しょ)っぱい」「酸っぱい」「苦い」「辛い」ですね。”五色”は料理の色数のことで、「赤」「白」「黒」「黄」「青」の五色って言われています。(※”五色”の一つとされている「青」は”Blue”ではなく、”Green”と捉えて頂いた方がいいですね。)”五法”は五種類の調理方法のことで、「生」「煮る」「焼く」「蒸す」「揚げる」。”五味”、”五色”は陰陽五行説に由来する言葉だそうです。中国の漢方学では重要な要素とされていますね。薬材(食材)の味と色の組み合わせによって、色んな薬効が得られるんだとか。中国から伝わった陰陽五行説に基づくこの”五味”、”五色”の概念が、日本の食文化に取り入れられることによって、”五味・五色・五法”が生み出されたんですね。和食文化において、この”五”と言う数もなかなか重要な要素になっているんです。和食の基本的な調味料も「砂糖」「塩」「酢」「醤油」「味噌」の五つとされていますし。料理を楽しむための要素として、”五感”全てを刺激することが重要とされているって具合に、とかく”五つの要素”って考え方がたくさん散りばめられているんです。うーん・・ まぁ、これらを踏まえて料理を作るのってなかなか難しいですよねぇ・・? 日本における”弁当”は、こう言ったことが非常に加味されて作られているんです。すごくないですか? で、実際にそういう”弁当”の方が人気があるんですね。やはり、いずれも重要な要素なんですね? これだけ様々な要素の組み合わせによって作られるわけですから、当然そのバリエーションも非常に多くなるわけです。

日本は昔から、海外から伝えられる食文化に関して非常に寛容で、適応力がありました。それに加えて、まぁ、何かにつけてどうにかして自分好みのものにならないかと執拗に調理方法を研究する傾向があったんですね。しかし、そのお陰で日本の食文化はとても豊かで多種多様になものになったわけです。”弁当”は、そんな日本の食文化の現在の姿がよく反映されているものと言えるかもしれませんね?

日本の代表的な弁当様式

日本の”弁当”には、その様式がとてもよく知られたものがいくつかあります。ご存知の方も少なくないでしょう。以下では、それらの代表的なものをいくつかご紹介しておきましょう。

o-bento_003
o-bento_005
・幕の内弁当:
そもそも日本において、”弁当”とは、持ち運びが可能な形に料理を一まとめにパッケージングしたもの全般のことを意味するんですが。”幕の内弁当”は、ご飯(白飯)と数種類のおかずから構成された弁当の様式の一つです。和食の基本構成としてよく知られている”一汁三菜”+ご飯と言う一食のセットを丸ごとパッケージングしたもののことなんです。(※ただし”一汁”にあたる汁物は含まれている場合とそうでない場合があります)江戸時代後期頃、歌舞伎等の芝居を見物するのが娯楽の一つとして広く知られるようになりました。”幕の内弁当”は、その演者や裏方スタッフ用に作られた弁当が元になっているそうで、それらの弁当を観客向けにも販売するようになったんだとか。おにぎりにおかずがいくつか添えられたものだったようですね。やがて、ご飯(白飯)と数種類のおかずを丸ごとパッケージングした様式のものが売り出され、とても好評だったらしく、その後この様式が様々なところで用いられるようになっていきました。料亭等の飲食店や旅館等が食事用、お土産用に作るようになり、また駅弁の様式の一つとしても広く知られるようになったんです。現在は、スーパーやコンビニエンスストア等でも定番になってます。

o-bento_004
・松花堂弁当:
ある程度フォーマルな、例えば冠婚葬祭と言った場において来訪者等に饗される弁当として知られるのが、”松花堂弁当”です。内部を十字型に仕切った、縁の高い蓋付きの弁当箱が用いられていることと、各仕切り毎に食器(小皿や小鉢)に盛り付けられたおかずが配されているのが大きな特徴ですね。お弁当におかずを詰める場合、おかず同士を仕切るために紙製orプラスチック製の器等を用いたりします。おかず同士が直接触れることによって味や香りなんかが移ったりするのをなるべく防ぐためですね。”松花堂弁当”は、そう言った心配をせずに、繊細なおかずを盛り付けることができるようにってことで生み出されたものなんだそうです。大抵の場合は、おかず×3と飯モノ×1、或いはおかず×4とご飯/汁物椀が別途、って感じの組み合わせになっています。和食の配膳形式の一つである”お膳”をそのまま箱詰めしちゃいましたって感じの、ちょっと上等な弁当と言えるでしょう。

キャラ弁(キャラクター弁当)

o-bento_0013
近年、SNSなんかでちょっとした話題になっているのがこの”キャラ弁”です。弁当の中身のおかずを、マンガやアニメ、絵本等に登場するキャラクターだったり、自動車や飛行機等と言った乗り物、風景や人物等を模して作ったものです。戦後の全国的な食糧不足の時代が終わり、高度経済成長期へと移り変わっていく頃。子供の食材や料理の好き嫌いをなくすための方法として、おかずの盛り付けや飾り付けの様々な工夫が一般向けに広く知られるようになったんです。ウインナーを飾り切りすることで、タコやカニなんかの形にしたりするのはとてもよく知られています。ご飯上に食材で絵を描いたり、野菜や果物を飾り切りしたりするのもそう言った工夫の一つですね。そんな子供が喜ぶような、見た目が楽しいおかずの盛り付けや飾り付けが更に工夫を重ねられていった結果、行き着いたのが”キャラ弁”でした。食材を用いて、人気のキャラクターなんかを二次元/三次元で再現したんです。まぁ、おそらくそれらの面白さは、実際に一度Webで画像検索して頂くのが一番かもしれませんね。ホント、びっくりです・・( ̄▽ ̄;) 実際のところ、日本の料理技術において、食材や料理で何かを”模する”と言う技術は結構昔からありました。肉類や魚介類を食することが禁じられている禅僧が、見た目や食感をそれらに模して調理方法の工夫を重ねた精進料理なんかはその一つですね。また、和菓子等の菓子類の製作においても、動物や鳥、植物や風景と言った身の回りの自然を模したものが多く作られたりしました。味や香り、食感ばかりでなく、見た目によっても”食”を楽しませることは、日本の食文化においてはとても重要視されていたわけです。”キャラ弁”は、そう言った”食”を楽しませる工夫の現在形の一つと言っていいかもしれませんね。