日本が世界有数の温泉大国であることはご存知の方も多いでしょう。環太平洋造山帯に沿って国土全体が乗っかってますから、まぁ、列島全体が火山群と言ってもいいくらいです。故に、温泉の源泉の数もたくさん。しかしながら、日本人は昔から日常的に”お風呂”に浸かる習慣があったのかと言うと、実はそうでもないんですね。温泉に浸かるには、源泉からお湯を汲み上げて来る必要があります。で、入浴施設を設えなきゃいけないわけです。たしかに、そうやって”湯治場”と呼ばれる入浴施設がいくつか作られ、昔から利用されていたんですが。まぁ、そんなに深い源泉を掘削するような技術は昔はなかったわけで、大半の”湯治場”は地表に湧き出して来ている源泉、あるいは比較的浅い地中にあった源泉を利用したものでした。当然、数が限られますから、やはりその地域の権力者や一部の上流階級が利用するためのものだったんです。そんな地域の権力者や一部の上流階級も日常的に”お風呂”に浸かるような習慣はなかったみたいですね。せいぜい、湯浴み(or水浴び)をするくらいでした。ちなみに、日本の神事においては、古代から水浴びは身を清めるための非常に重要な行事の一つでした。”禊(みそぎ)”と言って、とても特別な神聖な行為だったわけです。ですから、”お風呂”に浸かる、なんてことは、やっぱり相当に贅沢な行為だったんですね。一般庶民も温泉を楽しめるようになったのは、近代以降のことですし。日常の生活サイクルとして入浴が定着したのは更にもっともっと後のことでした。せいぜい5、60年くらい前ですかね。結構最近だったりするんです。

さてさて、江戸時代に入って、ようやっと社交場や娯楽施設として入浴場が作られるようになりましたが、まだまだ日常利用されるようなものではなく・・ やがて明治時代に入って、西欧文化が一般庶民の日常生活圏にもブワ~っと広がっていきましたが、それでも”お風呂”はまだ贅沢なものでした。しかしながら、大正・昭和初期へと時代が移っていくに従って、一般庶民の間でも衛生観念は高まっていったようでして、湯浴み(or水浴び)なんかの頻度は少しずつ増えていきました。これくらいの時期には、むしろ田舎の方では”お風呂”を設える家が現れるようになってきていました。近くに小川があったり、井戸を有している家なんかが中心ですね。家屋等が密集しており、未だ水道設備等がそれほど整っていなかった都市部とは違って、湯浴み(or水浴び)専用の場所や設備を家周りに追加することが比較的容易だったお陰です。一方その頃、都市部では”銭湯”と呼ばれる公衆浴場が現れ始めました。第二次世界大戦後には、”銭湯”での入浴は一般にもすっかり定着していきました。人々の利用頻度もどんどん増えて行ったんですね。そして、その後の経済復興に伴って入浴が生活サイクルに完全に組み込まれるようになったことでようやく各家に”お風呂”が設えられるようになったというわけです。

そんな具合に、現在では、毎日”お風呂”に浸かることが生活の一部のようになったわけですが。そのお陰で、入浴グッズは非常に充実しております。洗髪/洗顔/洗身料やその専用用具、美容グッズ、入浴剤などなど。商業施設やスーパー、コンビニなんかでもかなり広いスペースが確保されていたりします。今は、海外の商品なんかもWebサイトから簡単に購入できちゃいますから。まぁ、これらの類の商品の需要たるや、エラいことになってるんでしょうね。実際のところ、覗いてみるとこれが結構面白いんです。生まれて初めてホームセンターに行った時のような感動を覚えました(この感じ、ちょっと分かり難いですかねぇ・・?)。

日本において、入浴という行為は神事における”禊(みそぎ)”が元になっているってことを前述いたしました。神事と言うものは、”暦”にしたがって執り行われる年中行事です。大まかには”五穀豊穣”とか”無病息災”と言ったことを祈願するわけです。そんな季節ごとに執り行われていた神事の一部は、一般化した入浴文化にも取り込まれていきました。ちょっとだけ特殊な入浴方法を行うって形で。わりかし、風物詩みたいな感じに馴染んでいるものだったりしますので、ご紹介しておこうと思います。主なものはこの二つ。

・菖蒲湯(しょうぶゆ)
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“菖蒲”の根っこや葉を湯に投入したお風呂です。5月5日の”端午の節句”の日に入ることで、”無病息災”を祈願したんだそうです。特に、子供達の”身体息災”を願ったんですね。戦国時代の頃、主に武家で行われていたんだとか。江戸時代には一般庶民にも知られるようになりました。”菖蒲”は古来から薬草として知られていましたし、その香りには”悪疫退散”の効果があるとも考えられていました。まぁ、薬湯みたいなもんだったんでしょうね。

・柚子湯
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日本の代表的な柑橘類の柚子(ゆず)を湯に浮かべたお風呂です。”冬至”の日にこの”柚子湯”に入ることで、風邪を始めとした病気予防、つまりは”無病息災”を祈願したんだとか。大体、江戸時代辺りに始まったそうですね。まぁ、ちょっとした催し事みたいなものだったみたいです。”冬至”と”湯治”の語呂合わせによる”験かつぎ”の一種だったって言われてたり。実際、この”柚子湯”。科学的にも非常に血行が良くなる効果が認められてるんですよ?