日本の伝統工芸品の一つとして外せないのが「漆器」です。食器や雑貨、家具、家屋等々の表面に”漆(うるし)”を塗り重ねることによって作られる工芸品ですね。この”塗り重ねる”工程は是非一度お調べ頂きたいところです。品によっては、とんでもない工程を経てますので。

“漆”は、ウルシという植物から採れる樹液を加熱/濾過等の工程によって不純物を取り除いて着色等を加えることによって作られます。元々は、日用品の耐久度向上や腐敗防止、防虫等のために塗料として用いられるようになったようです。直射日光(紫外線)や極度の乾燥には弱いものの、熱や湿気、アルコール類や油脂類、酸/アルカリ等々に対する耐久性を兼ね備えた非常に優れた塗料なんです。ちなみに、このウルシから採れる樹液の用途は、何も塗料ばかりに限ったものではありません。接着剤としても用いられていたんです。遅くとも、縄文時代(大体9000年くらい前)の頃には、矢じりを固定したりするのに使われていたんだとか。焼物等の修復技術の一つ、「金継ぎ」技法なんかでは”漆”を接着剤で用いるんです。まぁ、とにかく非常に古い時代から用いられていた、非常に身近な素材だったようです。ウルシの生息域は、日本を含むアジア東部、南部、および東南アジアに限られていました。それ故に、”漆”を用いた工芸品はこれらの各地域における代表的な特産品となっていったわけです。

元々は、日用品を長持ちさせるための工夫から始まったらしい漆工芸ですが、年月を経て美術工芸品としての向上が目指されるようになりました。やがて、大航海時代を経て西欧諸国がアジア進出を本格化してきたことによって、”漆”を用いた工芸品は世界中に知られるようになりました。めちゃめちゃ人気だったみたいですね。美術工芸品としての需要がとんでもなく高かったんだとか。日用品として用いられていたものは勿論、現在なら文化財とか国宝指定されてるようなものまでが広く取り扱われました。・・で、その結果、国内にあった”超”貴重な品々の大半が海外に流出してしまいました。まぁ、「漆器」に限らず、この時代は国内の美術品や工芸品がたっくさん海外へと流れて行った頃なんですね? 一応ちゃんとした貿易によって海外に輸出されていったわけですし、異文化交流が盛んだったことの証明だったりしますから仕方がないんですが。世界各国の有名な美術館なんかじゃないと、それらの品々を見ることができないのはちょっと複雑な気持ちにならなくもないわけでして。こういうことを通じて、ようやっと自国の文化の素晴らしさを知らされるってことは結構多いんでしょうねぇ。

そんな経緯もあったせいでしょうかね? その後、日本における「漆器」の扱いはおそらくちょっと変わりました。”身近”な日用品ではなくなったんですね。勿論それだけの価値が十分にあるくらいに、更に”超”高品質な材料や”超”高度な技法の結晶とも言うべき工芸品になっていったからこそなんですが。それだけに、「漆器」は、是非とも実際に手に取って(あー、直接触るのはダメかも)、よくよくご覧頂きたいんです。本当に”美しい”工芸品ですから。そして、やっぱりきちんと日用品として使って頂きたいんですね? その美しさと共に耐久性や実用性もきっちり兼ね備えているからこその工芸品ですので。あ、ただしお手入れはちゃんとして下さいませ。

“漆器”の見分け方について

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その漆器が本物かどうかって見分けるのは専門家でも難しいんだそうです。最近ですと、塗り材が天然かどうかはホントに分かんないくらいだとか。そもそも、漆器ってものは、「本物」の定義がある意味ちょっとあやふやなんですね? いえ、このご説明では少し語弊がありますね。もう少し正しい言い方に変えるならば、「本物」の漆器とはどういうものかってことについて、一般的になされている認識が少し曖昧(正確じゃない)って感じでしょうかね。漆器は、”素地”と呼ばれる下地に、塗り材として”漆”を塗り重ねたものです。この”素地”に用いられる素材にも色々あるんですね? 天然木を削り出したものや、木粉を圧縮して成形したもの。木粉と樹脂材等を混ぜ合わせて圧縮した合成圧縮材。プラスチック等の合成樹脂材製のもの等々・・ 同様に、塗り材として用いられる”漆”にも様々な種類があります。天然の漆でも、国産と海外産があります。工芸用に開発された合成漆も色んな種類のものがあるんです。当然のことながら、漆器にはこれらの”素地”や塗り材が何かってことが購入者に分かるように、その漆器の分類を明記した説明書が付属してます。ただ、まぁ、正直ちょっと分かり難いんですね・・

ちなみに一般的には、漆器は塗り材と素地の違いでこんな感じに分類されます。

天然漆塗(天然漆を塗り材としたもの)
・素地:天然木 -①
※「木製漆器」と呼ばれる正真正銘の本物
・素地:天然木(木粉の圧縮加工材) -②
・素地:合成圧縮材(木粉+樹脂材等) -③
※ 現代の材料を素地としているだけでこちらも本物

合成漆器(合成漆を塗り材としたもの)
・素地:天然木 -④
・素地:天然木(木粉の圧縮材) -⑤
・素地:合成圧縮材(木粉+樹脂材等)-⑥
※「○○塗」と言った表示が現状認められているので本物

樹脂製合成漆器(ウレタン塗り材) -⑦
・素地:天然木(木粉の圧縮材)
・素地:合成圧縮材(木粉+樹脂材等)
・素地:合成樹脂(プラスチック等)
※ あくまでも漆塗り風ってもの

所謂、古美術品とか骨董品として扱われているモノは①、現代モノで高価がついてるものなんかは②③辺り。お手頃価格のものは大体④~⑥って感じでしょうか。うん、やっぱりちょっと分かり難いですよね~

日本の漆器にはその製造地域によってブランド名があります。大抵は、その地域名”○○”を冠して、”○○塗”って表記されているわけですが。で、実のところ、塗り材が天然漆でなくっても、或いは素地が天然木じゃなくっても、現状は本物の「○○塗」って表記をしていいことになってるんです。それらは全て本物の”○○塗”なんです。ですから、塗り材や素地の材質をどこまで許容するか?ってこと次第なんです。ご購入の際は、信頼置けるお店で店員さんに色々とご説明して頂くのがいいでしょう。ご参考にして頂ければ幸いです。